「お前は真面目だから、堅苦しく考えてるんだろう。時には気軽になればいいじゃないか。草壁は結構いいとこのボンボンなんだぜ。付き合っちゃえよ」

 私は黙っていた。何だろう、このわだかまりは。


 飄々と他人事のように言うのも、自分の話題から逸らしたいために無理して言っているようにも聞こえた。


「私、草壁先輩とは軽々しく付き合えないと思う。絶対合わそうと無理してしまうところがあるから。それに無理するなって近江君はいつも私に言うじゃない」

「遠山は、草壁といる時は無理してるのか」

「そりゃ、あれだけかっこよくて、みんなのアイドルになってる人だもん。そんな人が私と釣り合うと思う?」

「お前、もっと自信持て。そんなに自分を安っぽく見るな。遠山は俺の目から見ても充分可愛いぜ」


 近江君は私の頭に手を置いて、この時とばかりに年上らしく私を子ども扱いして、くしゃっと髪を弄くった。


「やだ、やめてよ。髪がくしゃくしゃになっちゃう」

「お前、毎日朝シャンしてるのか?」

「えっ、してないけど」

「そっか。でもお前の髪、つやつやできれいだな」

「えっ、そうかな」


 そしてチャイムが鳴り始め、私達は顔を見合わせ驚いた。


「ヤベー、授業遅れる。急ぐぞ、遠山」

「ちょっと、待ってよ、近江君。先行くのずるい」


 近江君が留年しても、私と同じ教室にいるんだから、同じ学年に違いない。

 いつも一人を好んでいても、それは人それぞれのスタイルでもある。

 私だって色々あるくらいだ。

 近江君だっていろんなこと抱え込んでいてもおかしくない。


 それより、同じ時間を近江君と一緒に過ごせることの方が大事だ。

 近江君のせいで変な道に迷い込んだけど、近江君と知り合えたことの方がよかったと今は思える。

 近江君の背中を見つめ、その後を追いかけているこの瞬間、特にそう思った。