草壁先輩が意地悪い笑みを浮かべた。

 いつもの草壁先輩じゃないように見えて、とても違和感を覚えた。


 近江君は顔を強張らせてイラついていたが、それ以上何も言わなかった。


「私、別に近江君の過去の事は気にしたことなかったです。それにそんな事関係ないです」

 折角フォローした私の言葉など誰も聞いてる様子はなかった。


 櫻井さんも唖然として、二人のやり取りを見ているし、そこには草壁先輩VS近江君の睨み合う姿があった。


「まあ、この調子じゃまだまだ言ってない事あるんだろ」

「おい、草壁、ちょっと待ってくれ」

 近江君の瞳は懇願するように深く草壁先輩を捉えていた。

 その眼差しに草壁先輩はやり込められて話すのをやめた。


「そろそろ戻らないと次の授業始まっちゃうわ」

 腕時計を気にしながら、櫻井さんが立ち上がった。

 きっと見かねてわざとそういう態度を見せたのだろう。

 櫻井さんならやりかねない。


「ちぇ、もう少し、ハルを虐めたかったのにな。ハルが同じ学年だったらもっと弄れたのに。居ないと寂しいもんだぜ」

 草壁先輩の目つきが笑ってなかった。他の事を示唆するようにじっと見つめていた。


「何が寂しいだ。それに結局何がしたかったんだ」

 近江君もそれに対して挑戦的な目を向けた。


「それはハルが一番分かってるだろ」

 草壁先輩が立ち上がり、やっと私の手を解放してくれた。


「それじゃ千咲都ちゃん。放課後にね」

 草壁先輩はスタスタと先に行ってしまった。


「もう、草壁君、一体何をしたかったのかしら。とにかく、近江君、また今度ね。他にも色々話したいことがあるしね。遠山さんもまたね。そうそう、今日は雨だから、場所取りの方は準備できてる?」


「はい。それは加地さんとすでに相談して、彼女が進めてくれてます」
「そう、よかった。今日は私用事があって部活休むから、後はよろしくね」


 櫻井さんは洗練されたスマイルを向けて、去っていった。

 二人が居なくなると、近江君は気まずそうだった。


「近江…… 君、私たちも教室戻ろうか」

 私の方が気を遣って声を掛けた。


「お前さ、分かり易いんだよ。前にも言っただろ、俺には気を遣うなって。俺は留年しても気にしてないんだよ。やり直しができることの方が有難いくらいさ。しかし、草壁の奴、この仮は返してやる」

 悔しんでいるけど、持ち前の明るさで近江君は笑っていた。


「ところで、遠山、草壁とは付き合うのか?」

 突然の質問に私はあたふたしてしまった。


「えっ!? それは……」

「何迷ってるんだよ。草壁と付き合ってもいいんじゃないか。あいつ、まじで遠山の事気に入ったみたいだし」


 近江君の口から言われると、とても気持ちが沈んでいく。