「千咲都ちゃん、ここで何してるの?」

「く、草壁先輩」

「何をコソコソしてるんだい」

「いえ、別に、その、ぶつかってすみませんでした」

 再び謝るも、草壁先輩は前方にいる近江君と櫻井さんに視線を向けていた。


「もしかして、ハルと櫻井が居たから遠慮してコソコソしてたんだ」

「いえ、そんな」

「いいの、いいの、気にしなくても。丁度良い機会だ。おいで」


 草壁先輩にいきなり手をつかまれ、しっかりと握られてしまった。

 そのまま引っ張られ、近江君と櫻井さんの前に連れられた。


 そして四人で座談会でもするように、二人の前の空いている席に、私も座らされ、その隣に草壁先輩も腰掛けた。


「あら、遠山さん」


 櫻井さんに声を掛けられ、私は頭をぺこりと下げた。

 その隣の近江君の不機嫌な表情が怖い。


「千咲都ちゃんも偶然図書室に来ててさ、俺が引っ張ってきた」

 草壁先輩がまだ私の手を握っていた。

 それをわざと二人の前で見せるから、私は恥かしくて俯いた。

「あら、草壁君と遠山さんはそういう関係だったの?」

「いえ、その、ち、違い……」

 私が否定しようとしたその言葉を上書きするように、草壁先輩は言った。


「うん。いずれそうなる。ねぇ、千咲都ちゃん」

「えっ、でも、私、まだ、その」

「今、俺、じらされてるんだ。千咲都ちゃんは結構、小悪魔かも。まあ、お預けくってる状態も、ちょっと燃えるけどね」

 かつて櫻井さんに辛い恋をしたからって、いくらなんでも本人の前でわざわざそんな事をいわなくても。

「お二人、結構お似合いよ」

 櫻井さんもさらりと言うけど、それ違うから。

 私はぶんぶんと首を振っていた。


 近江君は何も突っ込んでこなかったが、前方をチラリと見れば、呆れているようで、心なしかイラついていた。

 でもなぜ、近江君はこうもして上級生の人達と付き合いがあるのだろう。

 しかも近江君は、怯むことなくこの上級生達と普通に接している。

 その疑問は草壁先輩の何気ない言葉で解けた。