草壁先輩が教室にやってきてから、興奮冷めやらない相田さんたちに取り囲まれるのも辟易して、逃げ出したいのもあった。


 教室を出る時、柚実が気にして声を掛けてくれたが、希莉があの状態では三人でまだまだ以前のように楽しく話せる状態でもなかった。

 すぐ戻ってくると適当に交わし笑顔を向けたが、廊下を歩けばふと虚しくなってくる。

 何もかも中途半端で、周りにかき回されて毎日が過ぎ去っていく。


 これでいいのだろうか。


 先行きが見えない綱渡り的な状態に不満だけがどんどん溜まっていった。

 唯一、安らぎを感じて話せるのは近江君だけっていうのも、なんだか奇妙に思うが、その首尾一貫しているはずの近江君の様子がおかしいのがとても引っかかった。

 明らかにあれは草壁先輩に何かを言われたから、気にしているとしか思えなかった。


 図書室に入れば、窓際の勉強用のテーブルに向かって何かを読んでいる近江君の背中を見つけた。

 足をそこに向けたとき、近くの本棚の影から本を抱えた女生徒がでてきて、近江君の隣に座った。

 周りに迷惑がかからないようにしながら話しをしている二人は、とても親しそうに見える。


 そしてその女生徒は私も最近知り合いになった人だから、その光景は面食らった。

 私も憧れている櫻井さんだったからだ。

 なぜかそれを見たとき、私はドキッとして、後ずさりした。


 どこか邪魔してはいけない雰囲気を感じ取った。

 というより、私は怖気てしまった。

 見つからないように後ろ向きに下がっていると、運悪く人とぶつかってしまいヒヤッと驚いた。


「す、すみません」

 振り返りざま謝れば、その人は見上げるくらい背が高く、ニコニコしていた。