「いえ、それはどうでもいいんですけど、橘先輩も逃げて下さいね。そんな人友達じゃないですから」

「そうね」

 私達はクスクスとお互い笑って歩いていた。

 学年は違うけど、お互い妙に親近感が湧いて波長が合うような気になっていた。


 元々どちらも気の弱い、流されるタイプだから、似たもの同士なのだろう。

 同じ立場だと思うと安心して気を遣わないのが心地よかった。

 同じ制服を着た生徒が一斉に同じ方向へ流れていく中、私たちも混じっていた。

 橘さんと色々話しながら歩いていると早く学校に着いたように思えた。


「私は気弱だから、つい流されがちになるけど、もしまた常盤さんがあなたに絡んだ時は、助けられるように努力するね」

「ありがとうございます。なんだか心強いです」


 最後は気持ちよく笑顔を見せ合い、そしてそれぞれの行くべき方向へと別れた。

 問題の根本的なものがわかった後は、落ち着けそうな気になる。


 不意に見上げた空。


 じめっとした梅雨真っ盛りの曇った天気だったが、分厚い灰色の雲の上で待っている青い空がそこにあるんだと思える。

 少しずつ夏に向かっている汗ばみを感じながら、私は気を取り直した。

 いつか梅雨も去る。

 きっといつか──。