それに、草壁先輩とくっ付いてしまったら、櫻井さん親衛隊隊長の常盤さんがどんな攻撃を仕掛けてくるかわからない。

 それこそ次は武器がお目見えなんてことになったら恐ろしい。


 草壁先輩が私に告白してきたと知られるだけでも、一大事になりそうなおぞましい予感がした。

 だけどあまりにもとてつもない事柄が一度に私に降りかかり過ぎて、なんだか息継ぎが上手くできない。

 高校生活の中でアップアップと溺れている気分だった。


 就寝時間になっても、ベッドの上で何度も寝返りを打って、朝の目覚ましがなった時は寝たのかもわからないくらいだった。

 何かをやってないと、すぐに頭の中が一杯になって色々と考えてしまうので、さっさと身支度を済ませ、いつもより早めに家を出てしまった。


 早めの電車に乗り、いつもと違う時間帯で学校に向かう。

 それにしても眠かった。

 電車を下りて、沢山の人混みの中を歩いているとき、大きなあくびと共に目じりから涙がにじんだ。

 それを拭い取り、何度か目を瞬いていると、前方にどこかで見たような人が歩いていた。

 その人も私と同じ制服を着ている。


 誰だっけとすぐに記憶のピントが合わないまま、混雑した流れにそって足並みそろえて改札口を出たところで、はっとした。


 櫻井さん親衛隊にいた、一番存在感がなく気弱な人だった。

 あの人は他の親衛隊とは違う雰囲気が漂っていた。

 今のところ一人で歩いている。

 私は彼女に詰め寄って行った。


「おはようございます」

 後ろから声を掛けると彼女は振り返った。


 そこに下級生の私が立っていたことに喉の奥から反射した「あっ」という声が微かに漏れて、かなり驚いている様子だった。

「な、何?」

 一人だと益々気弱そうで、これなら私もなんとか話せそうだった。


「あの、常盤先輩の事なんですけど」

「私は、別に関係ないわ。ただ一緒に居るだけなの。あなたの事虐めてないからね」

 責めてもないのに、こんな事を第一に言い出すとは、やはり虐めの自覚があるようだった。


「別に先輩を咎めてるわけじゃないんですけど、なぜ常盤先輩は櫻井先輩と草壁先輩をくっつけたがるんですか?」


 草壁先輩から真実を聞いただけに、この部分が気になっていた。

 ちょうどいいチャンスだと思って不躾に訊いてみた。


「それは、お似合いだからじゃない」

「常盤先輩と櫻井先輩は親友なんですか?」

「そ、そうなんじゃないの?」

 居心地悪そうに、落ち着かない態度がどうもひっかかる。