二人が部室で話した時に感じた違和感は、これだったんだ。

 どうも櫻井さんは、草壁先輩が好きで追いかけているとは思えなかった。

 冷静で私情を挟むようなしぐさが、一切見受けられなかった。

 これで疑問は一つ解決した。

 全てを話した上で、草壁先輩は自分の愚かさを反省し、そして櫻井さんが自分を守ってくれたように、今度は草壁先輩が彼女の名誉を守ろうとした。


「だから、君がもらったという手紙は櫻井は絶対に関与してないと言い切れるんだ。あれは誰かが成りすまして君に警告してるだけだと思う。そして俺はそれを見て、自分のやってることとかわらないと思ったよ。俺も櫻井が何も言わないことをいいことに、本題を摩り替えてしまったからね。お蔭で目が覚めたというのか、吹っ切れたよ」


「そしたら、この手紙は一体誰が」


「それ、下駄箱に入ってたっていったよね。きっと君の身近にいる人じゃないのかな。だって、学年が違えば、名前が書いてない下駄箱なんて、誰の下駄箱かわからないもんだと思うよ。まあ、よほど探りを入れて調査したなら別だけど。櫻井はそんな事する奴じゃないしね」


「でも、私の事が嫌いってことですよね。そしたら、常盤先輩?」


「常盤? それなんだよ。なぜあいつが、あたかも櫻井が俺に気があるという事にして、俺とくっつけたがって、千咲都ちゃんに攻撃するのがわからないんだ。 俺にはそれが都合いい感じに働いたけど、それにしても櫻井を盾にして、俺が他の女子とくっ付くのも、話すことも監視するのはやりすぎだよな。勘違いにしても、櫻井と友達なら事情は分かりそうなものだし、ちょっとそこが不可解なんだ」


 この部分の謎だけ解けなくて、草壁先輩は腕を組んで考え出した。

 櫻井さんは草壁先輩を好きではないと分かった今、櫻井さん親衛隊の存在が浮いてきた。


「だけどやっぱりあの手紙は常盤さんじゃないでしょうか。あの人なら探りを入れて私の下駄箱見つけるくらい簡単そうですから」

「それでも、常盤でもないと俺は思う。あいつが成りすましたとしても櫻井の漢字を間違って書くかな」

「でもうっかりってありますからね。簡単な『斉藤』と字画の多い『斎藤』、ワタナベも簡単(渡辺)と難しい字(渡邊)もありますし、つい私は簡単な方を選びそうです」