「だから当然、櫻井も俺の事が好きだろうって自惚れていたよ。櫻井は面倒身がいいから、世話を焼くのが上手いし、話題にも事欠かさない。それだけ機転が早くて、細部まで気配りができる人なんだ。あの時、俺達は冗談交えて何でも話し合ったりできて、周りもいつも囃し立ててきた。俺はそれが当然のものだと思ってたし、そういう関係が心地よくて自然に付き合っていると思ってた。でもそれは俺の思い違いだって気がついた時、俺のプライドはずたずたに傷つけられたんだ」


 草壁先輩の顔が一瞬強張っていた。


「俺に夢中な女子達は一杯いた。俺をアイドルのように見立てて、持てはやす女子も多かった。俺はみんながイメージした通りのかっこいい自分をいつのまにか演じさせられて、醜態を見せるのが恥だと思うようになってしまった。つまらないプライドだと思っても、一度そこにはまり込むと、抜け出すのが困難なように、俺は自分で自分を縛りつけ、かっこいいままでありたいと思うようになっていた。本当に中身のない男だったと思う。それでも囃し立てる女子の目が気になって見栄を張っていた。だから、櫻井に振られたなんて絶対に思われたくなかった。寧ろ俺の方から振ったという事にしたくて、俺はそんな体裁を取り繕った。愚かな行為だったと思う。俺の方から櫻井を避けるようになり、口を聞く事も少なくなっていった。だけど、櫻井はマネージャーという立場から俺を無視する事はできずに、常に普通に接していた。多分彼女は気がついていたけど、特別に何をいうのでもなく、世間が誤解するまま、俺を立ててくれていたんだと思う。そういう無駄な気配りもしてしまうから櫻井には脱帽だった」

 大変な話に、私は相槌もできず圧倒されて聞いていた。