「何もそんなに驚かなくても。俺の事、嫌いかい?」

「ち、違うんです。その、先輩は、その、なんていうのか、ほらサクライさんがいるし」


 ここで草壁先輩は口を一文字に閉じて黙ってしまい、難しい顔になった。

 そして再び口を開いた時は、大きな溜息が出ていた。


「櫻井とはなんでもないんだ」

「だけど、サクライ先輩は草壁先輩の事まだ思ってるし、だから常盤先輩も友達だから心配してああやって私に警告してくるんだと思います」

「櫻井は俺の事なんてなんとも思ってないよ」

「そんなことないです。思ってるから、上手く気持ちが伝わらなくて、それで辛くてサクライ先輩はマネージャーをやめるんでしょ」

「えっ?」

 草壁先輩はこの上なく驚きの表情をして、私を見ていた。


「やっぱり草壁先輩はその理由を知らなかったんですね」

「そんな、まさか、ありえない」


 絶対に信じようとしない頑なな態度だったので、私はそれを証明しようと、以前下駄箱に入れられていたサクライさんからの手紙を鞄から取り出して見せた。


 あまりいい手紙ではなかったけど、これしか証拠になるものをもってなかったから仕方がない。

 サクライさんは悪くない事を何度も強調した。

 それを草壁先輩はじっと見ていて、眉根を寄せた。


「これを櫻井が君に?」

「はい。ほら、この部分、草壁先輩に近づくなってあるでしょ。やはり私なんかが現われて辛いんだと思います」

「ちょっと待ってくれ。これは櫻井が書いたものじゃない。絶対にそれはありえないんだよ」

「えっ? でも」

「ほら、ここを見て」

 草壁先輩は、サクライさんの名前が書かれたところを指で示していた。