部室を去ろうとした時、加地さんが用事で戻ってきてちょうど入れ違いになる。

 何も言わなかったが、冷たい視線が全てを物語っていた。

「今日はお先に失礼します。迷惑掛けてごめんなさい」

 最低限の礼儀をしたつもりだったが、加地さんはそれには答えてくれなかった。

 露骨に無視されるのも辛いが、マネージャー同士が仲が悪いのはやりきれない。


「あの、加地さん……」

 私が振り返って声を掛けると、加地さんは嫌悪感をあらわにして私を睨んだ。

「えっと、その、気に入らない事があったら直接行って下さい。直しますから」

「別に……」

 本当は腹に抱えているのに、敢えて言わずに威嚇するような答えだった。

「それならいいんだけど。それじゃお先です」

 今度こそ帰ろうとしたとき、草壁先輩が慌てて部室に駆け込んできた。


「千咲都ちゃん、帰るんだって。俺も一緒に帰るよ。どうせ今日は早めに切り上げる予定だったから」

「えっ、そんな」

「いや、後から症状がでる場合もあるから、念のため誰か側に居た方がいいだろ」

「は、はあ」

 草壁先輩の申し出を断りきれず、曖昧に受け入れてしまった。

 この時加地さんが一層キーっとしたのが、ピリッと肌に感じたように思えた。