「今更何を言うの。もうすでに決まったことなの。大失態をしてショックかもしれないけど、すぐに慣れるわよ。とにかく遠山さんには頑張ってもらわないと。こんなことで弱気になってるんじゃないの! あなたもっとしっかりとしなくっちゃだめよ」

 プリプリと怒っているみたいで、私は萎縮してしまう。

「はい」

 とりあえず返事はしておくが、自分が嫌われているのが少し辛かった。

 いつか下駄箱に入っていた手紙を思い出してしまう。

 きっとサクライさんは葛藤してるのだろう。

 こじれてしまった草壁先輩との恋。

 そして急にしゃしゃり出て、草壁先輩に接近してしまった生意気な一年生、そう、それが私。

 だけど自分がマネージャーを辞めることで、急遽代わりが必要なところ、皮肉にも私が後釜に決まってしまった。

 クラブのためには必要なマネージャーだが、その反面、草壁先輩に益々近づいてしまった私の存在。

 それでもサクライさんはクラブの事を優先して、大人な対応をしている。

 だけど私はサクライさんに嫌われても、そんなことお構いなしに彼女に好感を持っている。

 なぜだかサクライさんを見ていると、好きにならずにはいられない。

 外見の美しさもさることながら、キビキビとした姉御肌の性格が頼りたくなってくるほどに惹かれてしまう。

 自己管理ができて、瞬時に判断してテキパキと動ける活発さがとても魅力的だった。

 頭のよさも伺え、こんな女性になれたらどんなに素敵だろうと憧れてしまう。


 でも恋に関しては不器用な所があるのだろうか。

 草壁先輩となぜ上手くいかないのか私には不思議だった。


「ほら、またぼーっとしてるじゃないの」

「すみません」

「いい? みんなが練習してる時は常に先の事を考える癖をつけるのよ。不測の事態も含め、いろんな『もしも』の過程を想定しておくの。ぼーっとして立ってるだけでいいのなら、人形と同じよ」

「はい」

「分かったらそれでいいから。それじゃ、今日は早く帰った方がいいわ。私から皆に伝えておくから」

「でも」

「何がでもなの。そんな放心状態で練習してる場所に立ってたら、またボールが飛んできて避けられないわよ」

「わかりました。ありがとうございます。ご心配お掛けしてすみませんでした」

 サクライさんは機敏にグラウンドに戻っていった。

 私は言われた通り早く帰ることにした。