「仕方ないだろ、あんなスピードで飛んできたら咄嗟に避けろって方が無理だよ」

「草壁先輩、私は大丈夫ですから、どうぞ練習続けて下さい」

 弱々しく答えたが、実際痛くて目に涙が溜まっていた。

「ん、もう。世話が焼けるわね。マネージャーが怪我してどうするの」

 そういいながら、サクライさんは準備周到に濡れたタオルを私の顔に当ててくれた。

 瞬時に判断して用意してくれたのだろう。

 ひんやりとした感触が熱を持った鼻の痛みを和らげて行く。


「でも、あんなボールをまともに顔に受けて、鼻血が出ないってすごい頑丈な鼻だな」

 草壁先輩に言われ、私は鼻をすすってみた。

 鼻はもげることなくそこにあったのでとりあえず無事のようだ。


「もう、バカなんだから。ほら良く見せて」

「おい、櫻井、もっと優しくしてやれよ。お前の代わりに無理を言って来てくれたんだぞ」

「分かってるわよ。とにかくここは私に任せて、草壁君は練習に戻って!」

「ハイハイ、わかりました。マネージャー殿」

 草壁先輩は部室を出て行った。


 二人の会話になんだか違和感を覚えるのはどうしてだろう。

 何かがしっくり来ない感じがあった。

「ほら、ぼけっとしてないで、こっち見て」

 櫻井さんは乱暴に私の顔を自分に向けた。


 まじかでみる櫻井さんはやっぱり美しかった。

 なぜこんな美女を草壁先輩は放っておくのだろう。

 二人とも美男美女でお似合いのカップルなのに。

「後で腫れるかもしれないわね。まあ、血も出ず、傷つかなかっただけよかったけど。あら、手がちょっとすりむいてるわね」

 尻餅をついたとき、とっさに手が地面について手のひらが擦れたのだろう。
 擦り傷から薄っすらと血がにじんでいた。

 櫻井さんは救急箱を取り出し、慣れた手つきで私の手を消毒してくれた。

 こんな美人に傷の手当なんてされたら、もういちころでほれてしまいそうな気分だった。

 こういう人程、サッカー部には必要なのに、なぜ恋に破れただけで辞めなければいけないのだろう。

 私ですら、ずっと居てほしいと思ってしまう。

 サクライさんに嫌われていると分かっていても、私はサクライさんに頼りたくなる。

「サクライ先輩、どうか辞めないで下さい。私には代わりは務まりません」