「一体何の用?」

 図書室の本棚の前で、本を手に取り佇んでいた近江君に私は声を掛ける。

 メモを貰ったから会いに来てやったという、上から目線な態度を向けてしまった。

 近江君は落ち着いた様子で顔を上げ、私をまじまじとみてから片方の口角を粋に上げた。

 それがとてもふてぶてしかった。

「お前、なんか怒ってるな」

「怒ってないわよ」

「文句あるのなら、はっきり言ったらどうだ。溜め込んじまうと体に悪いぜ」

「そんな事のために私を呼んだの?」

「そんな事? どんな事だよ」

「だったら、なんで私をここへ呼び出したのよ」

「うーんなんでだろうな」

「えっ?」

 近江君は手に持っていた本を棚に戻し、暫く考え事をするように動かないまま話しだした。

「だけどさ、俺、お前を呼び出したんだろうか。メモには『昼休み 図書室』としか書かなかったけど」

 不思議そうにして再び私に視線を向けた。

「はぁ? そういうメモを机に貼り付けたら、誰だって呼び出しって思うじゃない」

「そうかな。もしかしたら、自分が居る場所を教えただけかもしれない」

「そんなことしてどんな意味があるの?」

「だから、遠山はここに来たんじゃないのか。俺が昼休み図書室にいると思って」

 意味がわからなかった。