「チャンス? なんの? ち、違うわ。これには自分でも説明のつかない事で、私だって訳がわかってないの」

「かわいこぶっちゃって。私あなたみたいな”いい子ぶりっ子”嫌いなの。ちょっとそこどけて」

 加地さんは私を押しのけて歩いていく。

 私は唖然としてしまった。

 それでも気を取り直して、必死に後をつけて行った。

 理不尽な態度を取られ、私だって気分が悪いし、腹も立ってくる。

 しかし、この時言い返す気力も失い、私は流されるままに気持ちを受け流す。

 加地さんがこのような態度を取るのは、私が低く見られて舐められているからに違いない。

 こういうきつい人は自分のレベルを基準にして、上か下かで判断し、そしてそのような対応をとる。

 部員や草壁先輩の前では見事に従順で明るいマネージャーを演じ、私と二人っきりの時は存分に見下す。

 更に私はそういう対応をされると、受身になりがちで反抗する事はなく、常に泣き寝入り状態になってしまう。

 私が強く言えたらいいのだけども、できないから加地さんはそこを嗅ぎ取って八つ当たってきた。

 マネージャーは押し付けられた感はヒシヒシとあるが、結局は自分もやるといった以上責任はとらざるを得ないだろう。

 一生懸命やる事はやるから、せめてその周りの人間関係だけは良好でいたかった。

 教室では希莉との問題。

 部活では加地さんとの問題。

 そして一歩外へ出ればサクライさん親衛隊との問題。

 どこまで私は運が悪いのだろう。

 気合を入れて高校入学に挑んだはずなのに、みんなに常に優しくして愛想を振りまいていたら全てが上手くいくはずだったのに、全てが裏目に出ているではないか。

 すっかり道を外した高校生活へと突入してしまっている。

 この先、私は一体どこへ行こうとしているんだろう。

 近江君が言っていた言葉が頭の中で蘇る。

 『お前さ、俺と係わってしまったことで道を誤ったのかもな』

 まさか……

 やっぱり近江君が原因?

 ふと見た窓には横殴りの雨が激しく叩きつけている。

 その大雨は確実に私の心にもザーザーと涙のように降っていた。