「千咲都ちゃん、頑張れよ」

「はい、ありがとうございます」

 この時の私は気疲れと慣れない仕事のせいですでに疲労し、笑顔を作るのも一苦労で、心から笑えなかった。

 こうなったのも草壁先輩の提案が原因と思っているので、応援されても複雑な心境だった。

 「お先に失礼します」と静かにドアを閉め、終わったことにほっとするも、冷静になった時、急激に腑に落ちない感情が湧き起ってきた。

 一体私は何をしているんだろうか。

 もしかしてこれは夢の中のできごとなのだろうか。

 こんな事になってしまったことが現実として受け入れられなかった。

「なんで、なんでなのよ!」

 まるで私が叫んだように、耳に自分と同じ気持ちの言葉が届いた。

 「えっ」と思った時、前方を見れば加地さんが振り返り私を睨んでいた。

「なんで、あなたが千咲都ちゃんで、私が加地さんなの。私の方が前からマネージャーしてるのに、どうしてみんなは今日入ってきたばかりのあなたに気を遣うのよ」

 私はなんと答えてよいのか分からず、困惑したまま加地さんを見ていた。

「私はあなたなんか認めませんからね」

 加地さんはスタスタと先に行ってしまった。

 嘘でしょう。

 ここでまた試練が発生してしまった。

 まさかの展開に私は絶句してしまう。

 どうして全てにおいて問題が発生してしまうのだろう。

 また新たな火種に私はチリチリと焼かれる羽目になってしまった。

「あの、待って、加地さん」

 何とかしたい。

 私は小走りで追いかけ、加地さんの前に立ちはだかった。

 だけど加地さんは口を閉ざしたまま、冷たく睨みつける。

「私も戸惑ってるの。まさかマネージャーになるなんて思わなくって。その」

「だったら断ればいいじゃないの。結局は草壁先輩に気に入られたから、調子に乗ってチャンスだと思ってやってきたんでしょ」