学校であったいやなことをブンジに愚痴りたいが、家族の前ではさすがにできずに、私は赤ちゃんのようにブンジを思う存分抱いていた。

 そんなとき、架がおやつの入ったパウチを見せるから、ブンジが落ち着きをなくして、私の腕から飛び出そうとしだした。

「ちょっと、架! 邪魔しないでよ」

「獣医のとこいって嫌な思いしたんだから、ご褒美くらいあげてもいいだろう。ブンジ、おいで。ほらほら」

 こうなると動物の本能は私への愛よりも食欲にいってしまう。

 ブンジは軽く暴れた後、私の腕から飛び出して架の方へと行ってしまった。

 でもブンジがアグレッシブに餌を求めている姿に少し安心する。

 架から餌を貰うと、必死になって噛み砕いて食べている姿は、まだまだ大丈夫だという気持ちにさせてくれた。

「架の指もいっしょに噛んじゃえ」

 そう言ったとたん、本当に噛まれて架の「うわぁ」という悲鳴が聞こえた。

「ブンちゃん、グッドジョブよ」

 思わず笑ってしまう。

 少しだけ気が紛れる瞬間だった。

 でもまた明日が来れば、希莉と会うのも怖いし、上級生と出くわすのも怖い。

 不安定な気持ちを抱え、それを払拭しようとブンジをじっと見つめることしかできなかった。

 おやつを貰った後のブンジはしきりに口の周りを舐め、そして次に手も舐めてその後は顔を洗いだした。

 それを暫く見つめていると、やっぱり和んでくる。

 悩んでも仕方がないと明日の事はその時が来たら考えることにした。

 ブンジの毛づくろいを見ているとき、また近江君の事を考えてしまう。

 近江君がブンジを見たら、同じように可愛いと思ってくれることだろう。

 この姿を見せてあげたい。

 そんな事を考えていると、まだなんとか教室に足を踏み込めそうに、少しだけ勇気が湧いてくる。

 明日は何気に近江君に話しかけてみようか。

 まずはブンジが獣医に行ったことをいってみようか。

 ブンジの話ならきっと近江君は聞いてくれる。

 勝手にシミュレーションして、近江君と向かい合っているその時の様子を頭に思い浮かべていた。

 そしてブンジにスマホを向け、毛づくろいしているところを動画で撮っていた。