ケージのドアを開けると、ブンジはうなぎみたいにするっと滑べるように出てきて、自分の慣れ親しんでる家でありながら警戒して体を低く保ってスタスタと走っていった。

 私はブンジを追いかけるが、追い詰めた先でブンジは気分を害していて体を強張らせ、少し怯えたような振舞いを見せた。

「ブンちゃん、大丈夫だよ」

 そっと優しく体を撫ぜてやると、ブンジはいつものように喉をゴロゴロと鳴らしだした。

 これが聞きたかった。

「それで、ブンジはどこが悪かったんだよ」

 架がキッチンでバタバタとせわしなく動く母に訊いていた。

 冷蔵庫から夕食の食材を取り出しながら母はさらっと答える。

「便秘だって。年を取ると排便がしにくくて、便が固まって出にくくなるんだって。それで獣医さんに出してもらったら、すぐに良くなっちゃったみたい」

「それじゃかなり溜まってたんだな。かわいそうに」

 架は食卓の上に置かれていたブンジの薬を手に取り、それを眺めながらほっとしていた。

 それは液体が入ったボトルだった。

 ブンジはこれからそれを毎日摂取しなければならない。

 でもそれは人間にも適応するようで、舐めるととても甘いらしい。

 そういうものなら、錠剤の薬よりかはちょっとは楽にあげられそうだった。

「ブンちゃん、便秘だったのか。そっかそっか」

 私はブンジを抱き上げ、そしてソファーに深く腰掛けた。

 ブンジはすっかり落ち着いて私の腕の中で喉をゴロゴロ言わせている。

 つい見つめたくて目を合わせてしまうのだが、猫にとってそれは敵意を持った威嚇のしぐさになるので、やってはいけない行為である。

 でもこのときブンジは目をゆっくりと閉じて瞬いた。

 ブンジにとってこれは、自分は敵ではないという意味で、私に心許してるから自ら折れるしぐさでもある。

 それは猫にとってはストレスの元になってしまうけど、目を瞬いて安心させようとするブンジの仕草が愛おしくてついわざとやってしまう。

 その後は私も思いっきり目を瞑って、敵意を持ってない事を伝える。

 それだけで、ブンジに愛されてると思えて、私は満足してしまうのだ。

 やっぱりブンジはかわいい。