一応危機は回避でき、息がしやすくなってほっとするも、あの常盤さんが受けた電話は誰からだったのか気になってしまう。

 あれがあったから何かの変化をもたらしたに違いない。

 草壁先輩が心配して、念のために確認して釘を刺してくれたのだろうか。

 それとも、突然の急用ができて慌てて帰っただけなのだろうか。

 どっちにしても助かったことには変わりない。

 ようやく呪縛から解放されて心に余裕が戻ってくると、先ほどまで見えなかった周りの景色が急に目に飛び込んでくる。

 無機質な雑居ビルに飾り付けられたごちゃごちゃとした看板。

 人がひっきりなしに過ぎ去り、すぐ横の通りには車がやや渋滞気味に進行していた。

 雑踏の中で一人佇んでいたその時、エンジンを吹かしたスポーツバイクが派手な音を立てて、のろのろと走っていた車をすり抜けて追い越していった。

 その行為に感化されて私も足を動かした。

 視線は先を行ってしまったバイクの小さな姿をなんとなく捉えている。

 やがてそれは視界から消えると、私もなんだか走り出したい気持ちに駆られた。

 『こんなトラブル続きの高校生活は嫌だ』と、足に力を入れて全てを蹴散らしてしまいたい程に早足で歩いていた。

 溜まる不満をどう対処してよいのか、せめて誰かに愚痴を聞いてもらいたい。

 思うままに話せる相手が欲しい。

 そう思った時、近江君が自然と浮かんできてしまい、思わずドキッとしてしまった。