「世」と言う文字が有る。今の言葉ならこの漢字は世界を表す言葉になるだろう。もしくは世の中つまり社会であると。今の時代では世界はとても広いもので構成されている。それこそ見知らぬ他人も含めて。
 だけど昔のこの国では「世」は男女の仲を示していたらしい。つまり昔は世界と言えばきっと愛し合う2人だけで完結していたのかもしれない。昔は今とは比べものにならないくらい色々な縛りが有っただろうけれど、昔のお話には男に振られて家を出ていく人のお話がたくさん有る。地位を家族を捨てるほどに傷つくのならそれは一つの世界の終わりなのかも知れないと思う。
 今の世界では恋愛に失敗したからって仕事を辞めて親との繋がりを切る人なんてあまり居ないだろうし、居たとしてもそれはとても痛い人だと言って引かれるだろう。
 結局、今の世界では恋愛は昔ほど人々の心を支配してはいないと思う。愛情ごときで人生は捨てられないし家族を切ることも出来ない。そういう意味では恋愛はお互い以外を排除することで作られる世界に閉じこもることなのかもしれない。
 まあ、こんなことを考えていて、そんな世界だと感じてても結局昔の恋に囚われているのがこの僕、天童 真なのだけれど。
 いや、馬鹿らしいと思うけど実際そうなんだからしょうがない。それは子供の頃のお話だけれど。高校生になった今でもまだ忘れられない。他の人のことを好きになることなんて出来ないし、したくもない。きっと一生忘れることは出来ないんだろうなって自嘲混じりで考える。馬鹿みたいだね。
 でも誰にでも有るんじゃないのかな?それが有ったから今の私が有る、とかその時間がとても楽しくて、それ以外は何も要らなくて、だけどそれだけが存在しない。そんな何かが。
 結局の所、僕の人生はそれの繰り返しなんだよ。手に入れては消えて、掴んだものは幻で。私の人生がそんなものだって最初に気づかせてくれたのは彼女だけれど。そんな彼女が一番手放したくないものだったってことは皮肉なことなんだろうけれど。
 だから僕は決めたんだ。友達も大切な人も作らないって。周りの人と話もするし遊びに行ったりもする。だけれど深く関わったりはしないって。これからは一生大好きな他人に囲まれて生きるって。 
 これから始まる物語はそんな歪んだ僕が、一つの世界を終わらせる物語。大好きな他人に囲まれた僕が初めて好きになった彼女を、間桜 彩を過去のことにして前を向くための物語だ。
 この物語を語るにはどこから始めれば良いのだろう?この物語は案外長くて面倒臭い、一年にも満たないということも出来るし逆に六年間の物語とも言える。とは言えそんな長くは見ていられないだろうからさくっと纏めるとしよう。