まだ17歳のわたしは、子供ながらに大人ぶって、背伸びをしていたあの頃。

君を見た瞬間にわかったんだ。
この人に恋に落ちることも。
この人とこの先なにかあることも。


初めて君と出会ったのはそう。ハナミヅキが咲く4月。




あたし、吉高杏里は高校2年生になった。
東原高校。2-A。
親友にも恵まれて、それなりに充実した高校生活を送っている


そんな平凡な春、あたしは一目惚れをした。


そいつの名前は、八代慎吾。
同じクラスの男の子。
八代と吉高だから名前順前後で、始業式の日にあたしの前に座ったそいつ。
だるそうに窓を見つめるその横顔に見とれてしまった。

整っているんだろうなとわかる横顔と微笑みながら太陽を見る姿に恋してしまった。

ああ、これが一目惚れなんだと実感したんだ。


それから2週間。
あたしはまだ八代慎吾とは話していない。

彼は、野球部だ。
坊主が似合っていて、日焼けしている体。身長は180を超えているだろう。
ポジションはキャッチャーだと知ったのは彼の親友であろう、川端 新が言っていたのを聞いた。



「杏里!マックいこ〜」

あたしを呼ぶのは、あたしの身長である
青木 潤 である。
黒髪の胸まであろう長さでパーマをかけてふわふわしている彼女は、華奢だが気が強くいつもあたしの隣にいてくれるいい女だ。


「いーけど、今日はなに?」

「さっすが杏里!なんかさー、孝之がむかつくんだよ!!」

孝之は、あたしと潤の幼なじみで彼も野球部だ。

「はいはい、仲いいんだか悪いんだか」

「仲いいと思う?ないない」

お似合いだと思うんだけどなあ…

2人で校門を出たところで、気づいた。

「あれ??携帯ない」

「え、教室?鳴らそうか?」

「うん、多分。ちょっと待ってて」

急いで、教室に向かうと誰もいなくて、机の中を見てもない。

「えー。どこだよ〜」

んー。教室じゃない。
今日は体育で、あ、体育の時めんどくさくてグラウンドに持ってったんだった。
それで、グラウンドの脇にある水飲み場に置いたんだ。


教室からグラウンドを見ると野球部が練習していた。

あー。あの中にいく勇気ないな。
でも、孝之に頼もうかな。
携帯ないと辛いし。

グラウンドにいくと、ちょうど、野球部は休憩中なようだ。

「た、孝之!」

「ん?おお、杏里!どうした」

「水飲み場に携帯置いちゃってて」

「あー、ちょい待てよ。おーい、慎吾!水飲み場に置いてある携帯とって」


「え、ちょっとちょっと。孝之が取りに行ってよ」

「え、だってめんどくさいじゃん。ちょうど慎吾いたし。」


いや、だとしてもちょっと。話したことないし。

すると、八代慎吾があたしの携帯を持ってスタスタと歩いてきた。

「はい。」

無愛想に携帯を差し出されて緊張してしまった。

「あ、ありがと」

緊張して、無愛想になっていたのか
孝之に不思議がられた。

「ん?杏里どしたん?」

「ど、どうもしない!ありがと、部活頑張ってね」

あたしはそのまま2人の顔を見ずに帰った。