隣に住むのは『ピー…』な上司

「じゃあ行こうか」

「何処へですか?」


遠い所なら勘弁して欲しい。


「展望タワー。夜景でも見ながら食事しよう」


タワーの上から見る夜景?
しかもディナー付き?



(女子の憧れね……)


さすがにツボは押さえてるってことか。



「嫌か?」

「いいえ。とんでも無い!」


一度きりだから楽しんでおこう。
課長みたいな人と食事するのも、きっと最初で最後です。



(道中が問題だけどね)


音楽は流れているし、芳香剤のいい香りも漂っている。
けれど。


(話題がない)


昨日もそうだったけれど、会話するのはニガテ。
一人きりで生活してきたせいか、コミュニケーションをとるのは勇気がいります。



「あの、課長…」


口を開いたのはいいけれど迷う。

どうする。
何ついて話す。



「…ピ、ピーチちゃんはその後元気ですか?」


話題と言ってもコレしか思い浮かばない。


「元気だぞ。風邪も良くなってエサも食べてる」

「そうですか。良かった」


体調の確認は済んだ。
だから次は何を話すべき?


「…名前、どうして『ピーチ』にしたんですか?」


鳴き声から取ったのか。
それとも何となくなのか知りたい。


し……んと車内が静まり返った。
課長からは答えも帰らず、気まずい雰囲気が流れる。



(あれ……?)


もしかしたら私、聞いてはいけないことを聞いたとか?