隣に住むのは『ピー…』な上司

「それ以上言うな。その礼のことだ」


『ピー…』で止められたらまるで放送禁止用語みたい。
自分の飼っている小鳥の名前なんだから堂々と口にしたって構わないのに。


スルッと離れていく指にホッとする。
解放された唇に課長の指の感覚が残った。


「明日、食事に連れて行きたい。仕事が済んだら時間をくれ」


くれ?
それ誘いじゃなく命令では?


「お礼とか別にいいです」


接点なく生活したいんです。私は。


「良くない。4日以上も世話になったのに」


律儀なんだか話されたら困るからなのか。


「病気だったんだから仕方ないです。ホントにお礼なんていいです」


私を誘わず本命とどうぞ。

私はただの宿借り。

昨夜のひと時だけで十分満足した。



「……あのな」


課長の体がこっちを向いた。
ビクッとして身構える。


「いや、あの……一緒に食事して欲しいだけだ」


声に照れが混じる。
信じられなくて、チラッと目線を上げた。


こっちを見ている課長の顔が赤い。
あの日を思い出して、ぼうっと見てしまった。


「メロンの借りも返したいし」


「メロン?」


美味しかっただけよ。
そりゃ叔父さん家に行く羽目になって、イヤな思いもしたけれど。


「借りはないですよ。私もお世話かけました」


お互い様です…と話す。
それでも引き下がる課長ではない。