隣に住むのは『ピー…』な上司

賛同してくれるのは有難い。けれど、この場から逃がして欲しい。


「…ご契約おめでとうございます」


昨夜言い忘れた。
課長の発言に驚いてばかりいたから。



「ああ」


それだけ?
なんて素っ気ないんだ。


「課長、アイの面倒頼んでもいいですか?私、ちょっとお料理食べてきます」

「ちょ…ちょっと真由香!」


料理なら私だって食べてないよ。
こんな雰囲気の中で食事なんてまともに喉も通らないから。


「逃げられたな」


課長の笑みが不適だ。

ムッとして黙り込んだ。

昨夜から今まで、一切口をきいていない。



「……帰りたいです」


子供みたいに呟いてみた。


「駄目だ」

「どうして!?」


ハッとして口を閉じる。
課長と目が合い、ドキンと胸が鳴った。


すぐに目線を逸らせてため息。
落ち着こうと思い、ウーロン茶を空にした。



「飲むか?」


近くにあったビール瓶を差し向けられる。


「け、結構です!お酒は飲めません!」


飲めないと言うより飲んだことがない。
そんな贅沢が出来るほどリッチな生活を送れなかった。


「ふぅん。じゃあこっち」


オレンジジュースを向けられる。

嫌々ながらもグラスを差し出す。
主役に注いでもらうなんて、マナー違反もいいところだ。


「課長もどうぞ」


入れてもらったオレンジジュースは飲まずにビール瓶を差し向けた。