「一人で食べきれないなら実家にでも持って行けばいいじゃないか。会社の上司に貰ったと話せば済むことだろう」


簡単に仰る。
それが一番難しいんだということをこの人はちっとも理解してない。




「実家ですか……」


メロンの入ったビニール袋をぶら下げて悩んだ。
頭の中に浮かんでくるのは、帰りたくもない家の様子。



「……分かりました、いただきます」


ありがとうございました…と頭を下げてドアを閉めた。

立ち去っていく人の足音を確かめながら、ふぅ…と重い溜息が出る。



(どうしよう、これ……)


クンクン…と中身の香りを嗅ぐと、今まさに食べ頃といった感じ。


このまま腐らせてしまうのは惜しい。

かと言って実家へ足を向けるのはもっと気が重い。


困り果てながら部屋へと上がる。

お気に入りのシステムキッチンの流し台の上に乗せ、中の一つを取り出した。



「このメロンなんて言うんだろう?」


鮮やかなレモンイエローに近い色。

きれいな楕円形をした果物を前にゴクン…と唾を飲み込んだ。


この最近メロンなんて食べたこともない。

気楽だけど贅沢できないOL生活の中で、ほぼ無縁だった代物です。



「折角だから味見する?」


カッティングボードとナイフを取り出し、洗ったばかりのメロンを半分に切ってみた。


サクッと見事に割れた果肉の中身は、丁度いいぐらいの熟し加減で。