(そうよ。これまでだってずっと一人だったし、今更誰かに恋をするなんてありえない)


課長のことを思うと胸は確かに弾む。
今まで見たこともない顔に触れて、ときめいた気分を味わわせてもらった。

課長の素顔がどれかなんて知らないし、これからも素の顔なんて知らないままでいい。


心を乱されて生活するのはイヤ。
マイペースにやっていければそれでいいんだからーーー。



(もう近づかないで下さい。課長)


近くに住んでる部下をからうのはやめにして。
遊び相手が欲しいなら他の人にして欲しい。


私は一人だけがいい。
恋なんてしなくても生きていける……



(恋なんてしなくても……)



妙に落ち込む。
課長のことを好きでもなんでもないはずなのに。


(あんな謎だらけな人を思って悩むなんてどうかしてる……)


ヘタに近づきすぎてしまった。
もうこれ以上接点を持つのはやめよう。


「そうよ、これまで通り接点少なく生活すればいい」



心に誓ってオフィスへと向かった。

私の思いとは正反対に物事が動いていると知ったのは、終業の時間が迫ってきた頃ーーー




「打ち上げ?」


二重瞼の黒い瞳に長いツケマがくっ付いてる。
ブルーのシャドーをキレイに塗り直した真由香の目が、私のことを見ていました。


「そう。課長の結んできた契約を祝って打ち上げしようって話。アイも行くでしょ?こんなめでたい事そうそう無いから」