昨夜はあまり眠れませんでした。
課長の発言を間に受けすぎて、胸が騒めいて仕方なかったから。

いつも以上に早くから目が覚めて、ベランダに続くサッシを開けてみたら……


(眩しっ…)


降り注ぐ太陽は既に高くて、セミは賑やかなくらいに鳴いている。
夏が本番を迎えたんだと思い知る。
その煮えそうな暑さの中で、ぼぅっとしたまま考え込んだ。


昨夜の発言は何だったんだろう。

俺の女にならない?と言った課長の言葉の真意をどうしても理解しがたい。

小鳥を預けられる場所が他にあるのに何故私を女にしたがる?

男が怖くて近寄れずにいる私をからっているだけだろうか。


小鳥のことで燥ぐ私が子供っぽかったからバカにした?

私なら騙せるとでも思った?

本命だけに絞るのが惜しくて、他にも手を出そうとしてるとか……?



考えても考えてもわからない。
課長の気持ちが私にはサッパリ謎です。




「ピーチ」


課長が小鳥の名前を呼んだ。
流れてくるタバコの煙でベランダにいるんだと知った。


(今日は出ないでおこう)


昨夜みたいにからわれるのはイヤです。
恋愛に憧れる気持ちはあってもやはり男は怖い。

課長になら助けてもらえると思う気持ちはどこかにあった。
でも、やはり泰明と同じ気がする。



女になんかならない。

私は一人でも平気です。