翌日の午後、課長から直帰の知らせが入りました。

取引先との大まかな契約が決まり次第、オフィスには寄らずに帰る…と言ったそうです。


「折角打ち上げしようと練ってたのに」


真由香はブチブチ文句を言う。
他の同僚たちも「付き合い悪いよな」と話し合っていた。


私はそれを聞きながら何となく課長の気持ちがわかりました。

ただ自分の部屋でノンビリと寛ぎたいだけなんじゃないか…って。



(でも、わからないよね。課長はどこか謎だから)


私が見ている顔が全てではありません。
まだ知らない表情もきっと持っているはずです。

全部を知ることなんてできない。
課長との関係は今日を最後に元へと戻るから。



(帰りたくないな)


帰ったら小鳥を返さないといけない。
課長の元へ行ってしまったら二度と私の部屋に小鳥は来ない。


課長と電話で話す機会もなくなる。
耳の側で笑い声を聞いたり、優しい顔つきを眺めることもできないんだ。



……そう思うとしんみりしてしまった。

帰る足取りも重くなり、ズルズルと靴底を鳴らす。

あの角を曲がればマンションが見える。


課長はもう部屋に帰っているのかーーー




ドキドキしながら道なりに曲がった。
見上げた視界の先に背の高い男性が立ってる。


ドクン!とイヤな音を立てた心臓が動きを速めた。

バクバクと凄い勢いで、身体中に血液を送り出そうとしてる……。