「小日向課長が大手スーパーとの契約を取り付けたんだって」

「課長が!?」


真由香の話では、どうやら課長はこの間の会議で外資系スーパーとの契約を結ぶよう頼まれたんだとか。
クールでムダ話をしない彼なら適任…と、上役たちに言われたらしい。


「悔しいけどスゴい。契約取ろうと思っても、なかなか取れない所だと聞いてたから」


もしかしたら出張が伸びるかもしれない…と話す。
そうなると私は、4日以上小鳥を預かることになるけれど。


「ホントに?」


思わず確かめてしまった。
小鳥を預かるのは嫌じゃないけれど、それなら連絡をしてきて欲しい。


「もしかしたらよ。細かいことも決めないといけないだろうし、大手スーパーとの契約なら何かしら厄介ごとも多いはずだから」

「そ、そう…」


外回りに詳しい真由香の話に納得しつつも戸惑う。

小鳥が元気そうにしていたことを知らせたくても、そういう事情ならかけにくい。


(夜なら平気?)


契約後の流れなんて知らない。
ひょっとしたら付き合いで飲みに誘われるかもしれないし、契約後のお疲れで話す気にもなれないかもしれない。


(やっぱりやめとく?)


気持ちをセーブするのは昔から。
叔父さんの家でお世話になりだしてから、私は一切ワガママを言えなくなった。


何にでも遠慮してしまう。
人と上手く付き合えないのも、踏み込むタイミングが掴めないせいだ。