「課長って何考えてるんだろう」


真由香は笑いもしない小日向課長の言動が理解できないらしく、これまでは私も同じ思いでいたけれど。

昨日あんな焦った姿を見てしまったからだろうか、今日は何となく理解できる。


(きっとピーチとかいう小鳥のことでも考えてるんじゃない?)


そんな風に思えてしまった。
誰にも言うな…と言われたから声にも出せやしないけれど。


何気に視線を送ると、こっちを見ていた課長と目が合い……


ドキン!と胸が弾んで息を呑んだ。

それなりにイケメン風な面差しをした人と目が合うなんて、これまでは一度もなかったから。


(ど、どうしよう……急に逸らすのもおかしいし……)


ドギマギとする私の心配は無用だったみたいです。

課長の方が直ぐに視線を逸らしてくれた。



(ほっ……良かった……)


息を吐いて仕事再開。

私がしているのは、販促用のチラシ作り。


加工食品の卸販売を手掛けるオフィスに勤めて5年。
小日向さんが課長を務める販売促進課に配属されて3年が経ちました。

配属された頃は賑やかな職場に慣れなくて、要らない神経をあれこれと使っていたけれどーーー



『アイは人付き合いが苦手なのよ。あんまり無理に誘わないでやって』


藍(らん)という名前を『アイ』と呼ぶのは同期の真由香だけ。

人付き合いが苦手な私の相談相手は彼女一人だけです。