(ああ、じれったいっ!)


どうして課長のケイタイ番号を聞いておかなかったんだろう。
そしたら困ったことがあっても、直ぐに連絡することができたのに。



「白鳥くん」

「は、はい!」


ハッとして声を上げた。
前の席にいる子が、何事?というような顔を見せる。


「す…すみません。何か?」


目線を下げて聞き直す。
課長は落ち着いた声で私にメモを取るように言った。


「これから言う数字を書いて。090ー5……」


言うことだけ言うと、もう一度言うから…と話す。


「こちらから言い直しましょうか?」


読み上げようとしたら、「待て!」と止められた。


「俺のケイタイ番号だから言うな。もう一度教えるから間違ってないかだけ伝えろ」


読み直された番号を1つずつ確かめた。


「間違いありません」


書いたメモを思わず隠す。


「何かあったら電話してこい。出なかったら留守電にメッセージを残していいから」


「わ、わかりました」


ドキドキしてくる。
秘密の共有をしたみたいで、どうにも焦ってしまう。


「じゃあな」

「は、はい」


プッ…と切れた電話を確認して受話器を置く。

落ち着かない気持ちでいたら、前の席の子が聞いてきた。


「何かトラブルですか?」


ドキン!と跳ね上がる心臓。
前にいる同僚の顔を確認して「ううん」と慌てて手を振った。