笑っているところは見たことがないし、いつものっぺらぼうな顔をしていて何を考えているのか解らない時もある。


パソコンの前に座って課長のことを観察していたわけじゃありません。
私の隣に座っている真由香が、そんなふうに評しているのを聞くから。


真由香はホントによく人を見ている。

私が販促課に異動させられてきた時も、無理して打ち解けようとしていたのを見抜いた。


あの時はホントに助けられた。
慣れない部署に異動させられて、活発な人達ばかりがいるので困っていた。



『今度飲みに行こう』


同僚に誘われて戸惑った。
泰明に犯されそうになってから、私は人に近寄れなくなっていた。


『ランちゃんって名前可愛いよね?年って幾つ?20代前半?』


既に30歳の呼び声が近づいている私にしてくる質問でしょうか。
知らん顔しておきたいのが山々だったけれど、やはりそうもいかず……


『私は永遠の25よ!』


見栄を張ったら笑われた。
自分が言った言葉で人が笑ってくれるのなんて、初めての経験でした。


『ランちゃんって面白い人だね!』


そんなふうに言われたのも初めて。
少しだけ気を良くしていたら、隣で聞いていた真由香が声を上げた。


『アイ、無理に楽しくさせようとしなくいていいのよ。この人達は何を聞いても笑うし、面白くないことも笑いにできる人達なんだから』