隣に住むのは『ピー…』な上司

どっから住所を聞いたの。
二度と顔も見たくもないのに。

住所を話しているのは叔父さんだけしかいないんだから、漏れても不思議はない。


誰にも話さなければ良かったと後悔した。
そんな思いも知らず、泰明はこう言いだした。



「あの時のことを謝りたくて…」


「あの時」と称された日のことを思い出したくない私はその申し出を拒否した。



「そんなの今更どうでもいいから」


早く帰れと言わんばかりに横をすり抜けようとする。



「待って!」


肩を掴む手に身体中が強張った。

恐怖に怯える私を見て、泰明は手を離すどころか返って力を入れてきて……



「相変わらずウブだね」


クスッと笑う泰明が許せなかった。

あの時の恐怖が忘れられなかった私は、誰とも付き合うことができなかった。



「ほっといて」


振り解こうとしても解けない手の力に、あの日と同じ恐怖が蘇ってきた。

ゾワゾワと足元から上がってくる怖さに身を縮こまらせていたら、聞き覚えのある声が私のことを呼んでくれた。



「白鳥?」


ハッとして後ろを振り向いた。
ペットショップの袋を小脇に抱えている小日向課長がこっちへ来ようとしていた。



「課長!」


ホッとして走り寄った。
課長の隣に立ち、肩の力が抜けるのを感じた。



「誰だ?」


小声で囁かれ、ハッと我に戻った。


「あ…あの、従兄弟です……」