『ピーチッ!』


焦ると人間ロクでもないことしかしない。

手に持っていた歯ブラシを握りしめたまま、俺はベランダへ駆け出した。


サンダルをきちんと履いていたつもだったのに、後から気づくと片足のみしか履いてなかった。

洗面所に向かうと、頬には歯磨き粉がスジのような跡を残して付いてる。

ピーチを見つけた時の安堵さと、その後の間抜けさに歯痒くなり、必死で照れを隠していたら……


根暗部下の白鳥と目が合った。
ヤバい…と思ったから直ぐに目線を逸らしたが。


何か礼をしておかないとマズいんじゃないかと思いだした。

口止料……と言うか、そもそも絶対に喋られては困る。


自分のプライベートをオフィスの連中に話されるのはまずい。

クールで感情を表に出さないと噂されてきた俺なのに、こんなところでウラを知られてたまるか。


家に帰るとたまたま出張先から貰ったメロンがあることに気づいた。

契約農家から出荷所、加工工場から出荷先…と、一連の商品過程を視察する度に頂いたメロンの数々。



行く先々で試食を…と出された。
最後はお土産に…と、ドッサリ持たされた。


ウンザリしながら重いビニール袋を下げて帰ればピーチの脱走騒ぎ。

ドタバタ劇を黙らせる為に押し付けたメロンは、どうやら白鳥の気を重くしたらしい。




(……ほらな、また溜息だ)


資料作りをする手が再々止まる。

あの困った様な表情を思い出す度に、やらかした感が募っていった。