そう言えばあの時、課長は少しビックリしたような表情をしていた。

すぐに小鳥を探し始めて、いろいろあって忘れていたけれど。


「あっ…じゃあ、もしかしてあの日……」


泰明が二度目に訪ねてきた時、マンションに戻ろうとした私を引き止めてわざわざ言った挨拶はーーー



「俺は君に『ただいま』と言いたかった。鳥ではなく、白鳥 藍という女に挨拶をしたかったんだ」


「私が電話で挨拶する相手がいるのはいいって言ったから?」


あんな何気ない会話を大事に思っていてくれた?


「一方通行じゃ駄目だろ。するのならお互い様でないと」


課長があまりにも笑顔で言うもんだから。

優しい表情を浮かべて口角をキリッと上げて話すもんだからーー。


ガラス窓に手を押し付けてしまった。

課長は迷わず、私と同じ行動をとりました。


「……入れてくれないか、藍。俺は君を抱きしめてやりたいんだ」


ぎゅっとされるのは幸せ。
でも、課長からはきっと抱きしめられなかったんだ。


生まれてくるのを望まなかった。

その命を抱きしめてしまったら、自分で自分が保てないような気がしていたのかもしれない。


「自分から守りたいと思ったのは君が初めてだ。俺のことを信じて胸に飛び込んできただろう。
あの時と同じように来て欲しい。俺が藍を、必要としているんだ……」




「……カンタンに「藍」と呼ばないで下さい……」



泣きながら課長に頼んでいました。