隣に住むのは『ピー…』な上司

……でも、俺にはそれを言うことができなかった。もなが母親のお腹に出来た時、平気で『堕ろせ』と言った男だから」



『勝手に決めつけるのはよせ。子供にとって親が必要なんて、誰がそんなことを決めたんだ』


(あれは……)


思い出された言葉は、課長がその思いを打ち消すためにずっと言い聞かせてきた言葉だったのかもしれない。

自分の酷い仕打ちを思い出す度に、胸に刻みつけてきた十字架。

一体どれほどの思いで、それを持ち続けていたのか……。


「出張で長く部屋を空ける時だけが、もなとの面会時間だった。会う度に変わっていく子供に抱きつかれるのは凄く幸せな瞬間だった……」



課長の声が震えて、何故だか私の方が胸が熱くなってしまった。


涙を堪えないといけないのに、目の中が潤んできた。


零さないように気をつけていたのに、一度だけ鼻を吸ったらポロリ…と溢れ出てしまった。


それ以上流さないように、必死で瞬きを堪えたけれど。



「…ご、ごめんなさい」


堪えきれずに一筋流れた。
急いで手の甲で拭いたけれど、涙はすぐに溜まっていって……。



「出張から帰った翌朝、ピーチがいなくなったのを知ってベランダへ飛び出したら君がいた。
呑気そうに身構えて「おかえりなさい」と言ってくれただろう」


いきなり話が変わったのかと思いました。
課長の顔を見て、コクン…と頷き返した。


「あの時、嬉しかったよ。まさか俺にそのセリフを言ってくれる女がいるとは思ってもいなかったから」