課長の考えていることが私にはわかりません。

わからない以前にやっぱり何も知らない。

小鳥を可愛がる課長の素顔はステキだった。

優しく名前を呼んでいるのも絶対忘れたくない事実です。



(でも、考えない。忘れる)


そう思っても募っていくこの思いは何だろう。

じわじわと押し迫ってくるような寂しい感情をどこへ持っていけばいいのか。


一人で生きていくことが自分に課せられた人生だと思った。

誰かと一緒に生きることなんて全く考えたこともない。


だから、これからもずっと一人で生きる。

それが私なりの幸せーー。



ちらっと顔を上げると課長の視線とぶつかった。
パッと目を逸らせたけれど、胸の奥で心臓が高鳴り始める。


好きになってはいけない人だと知ってる。
自分は一人で生きると決めている。


だから……



「……っ!」


ポケットの中でも揺れるケイタイにビクついた。

慌てて立ち上がり、そそくさと廊下へと出た。


切れないうちに取り出してみると、そこには『小日向課長』の文字がーーー



震え続ける電話を無視しておこうとした。

今更だと思いながらポケットに入れることもできない。


立ったまま暫く悩んでいた。

その間にケイタイの震えは止まった。


ホッとしてポケットに入れようとしたらメッセージの着信音が響いた。


(もしかして……)


覚悟を決めて電源を入れた。