家庭の有難さを一番身に染みて知っているのは私だ。

突然に無くしてしまった時、その儚さを嫌というほど味わった。


だから、同じ思いをして欲しくない。

愛を感じられる場所で、きちんと子供を育てて欲しい。




「藍……」


こんな時に名前を呼ぶのか。
そんなふうにされたら私の気持ちが乱れると知っているくせに。



(だから恋なんてしたくない……)


右も左も悪も善も見えなくなるような恋はイヤ。

あったかくて包まれる様な、そんな人とだけ恋がしたい。


真夏のように焼け付く恋は似合わない。

陽だまりのように溶けていく恋の方が好きーー。



「もう声をかけないで下さい。どこで会っても課長とは上司と部下でいます!」


お願いだからそうさせて。
私は誰よりも子供の味方でいたいの。


「失礼します」


バクバクする心臓を戦いながら言いたいことだけを言い切った。
途中から何も言わず、課長はただ私の顔を見ているだけに留まりました。


部屋の中に戻って窓を閉めました。
後手にカーテンを引っ張り、日差しを遮って座り込んだ。




「うっ……えっ……」



途端に涙が溢れ始めた。

課長と決別することがこんなにエネルギーのいることだと思わなかった。


口を挟まずに唖然としていた。

私はきっと恐ろしい顔をしていたに違いない。



(だって、好きになっちゃいけない人だもん!)