隣に住むのは『ピー…』な上司

「ピーチはもうここにはいない。昨夜、もなが連れて帰った」


「もな」が…という言葉にビクンとした。

課長の表情が固くなり、一瞬だけ間を置いてから続けた。


「ピーチの本当の飼い主は『もな』だ。俺はあいつが自分で面倒を見れるようになるまで預かってただけだ」


『もな』と呼ばれる子供のことを聞いてみたいと思いました。

でも、課長の子供だとわかるから敢えて聞くことはしたくなかった。



「そ……そうですか……」


ということは課長も?
課長もここからいなくなるっていうこと?



(そんなのイヤ…)


思わず先に浮かんだ言葉を口にするのはタブーだ。


私が望んでも彼には帰るべき場所がある。

それを優先させないでどこを優先する。

この部屋に縛り付けておくことなんて、私にはできない。



「課長も……帰られるんでしょうか?」


意を決してそう聞いた。
決別をするのならハッキリとそう言われた方がいい。


「どういう意味だ?」


課長の方が不思議がる。


どこまで部下をバカにしているんだろう。
人をからかうにも程がある。


「だって、家族がピーチちゃんを迎えに来たんですから、次はパパが帰る番でしょう?」


わざと「パパ」と呼んでみた。
腹いせのような気持ちでいたら課長は少しだけムッとして……


「俺はどこへも行かないよ。ピーチが帰った場所は俺が帰るべき家じゃない。勘違いをするのは止してくれ。勝手な憶測で話されては困る」