隣に住むのは『ピー…』な上司

「…………」


少しだけ…と思い、視線を左のベランダへと移した。
誰もいないと思っていたベランダに、ぼぉーとした表情で立ち竦む人を見つけてしまった。


ドキン!と心臓が動いて狼狽えました。

その人は私に気づく様子もなく、ボンヤリと外の世界を眺めている。


首を傾げてから気づきました。


今日は小鳥の声がしていない。



(あれ?ピーチちゃんは?)


課長が外でタバコを吸う時は、大抵聞こえていたはずの鳴き声。

ピルピル鳴く声に合わせて、課長が口笛を吹く姿を何度も目撃してきたのに。



「課長……」


あろうことか私は自分から彼を呼んでしまった。

寝グセで固まった髪の毛をした人は、私の方へ振り向きました。



「白鳥くんか……」



「藍」と呼ばれたのが夢のよう。
あれは結局、夢みたいなもんだった。


「今朝はピーチちゃんの声がしませんね。まだ眠っているんですか?」


小鳥は早起きだと聞いたことがある。
実際お世話をしている間、早くから声が聞こえていました。



「ピーチか…」


そう言って黙りこくった。
課長の顔がとても暗いように思えてしまった。


「何かあったんですか?」


そんな暗い顔をされると気になる。
ただの上司と部下でいようと決めたばかりなのに。



口を開けた課長のことを見入った。
その口から出てきた言葉は矢のように胸の奥へと突き刺さった。