隣に住むのは『ピー…』な上司

(課長には本命がいるんでしょう……)


男慣れしていない純な部下をからかうのは止めにして。

私が一人で生きていけなくなるから。


頭を横に振り回して邪念を遠ざけました。
本命のいる人に恋をして幸せになれる筈がない。



(帰りはもう黙っておこう)


エレベーターの中も車の中でも沈黙を保った。
私が唇を噛むようにしていたせいか、課長も何も話さずにいてくれた。




「ご馳走様でした」


車外へ降り立つ前、ようやくお礼を言った。

結局、食事代は課長が支払った。
私がトイレへ行っている間にさっさと会計を済ませていた。


「また誘っていいか」


問いかけに対して首を横に振りました。


「今回限りにして下さい。昨日も言いましたけど、課長の女にはなりません」


胸は弾むけどムリ。
遊ぶのなら他の人にして。


「白鳥くん、俺は……」


課長の言い訳を聞こうともせずに車外へ飛び出した。

追いかけるように出てきた課長が私のことを名前で呼んだ。



「藍……!」


ビクついて足が止まる。

その私のところへきた課長が、そ…っと右肘の辺りを掴んだ。


「君のことを知りたい。おれと付き合ってくれ」


その言葉を聞いてわかった。

私の胸の中に、既に課長の部屋があるってことを。

とっくに入り込まれていて、さっきからそのドアをノックされ続けていたんだ。



「でも、課長は……」


振り返って腕を解いた。

泣きそうになりながらなんとか涙を食い止めて言おうと口を開けた時ーーーー