「千咲希、大丈夫?」 

 表通りを避けて、人気のないオフィスビルの近くまで千咲希の手を引っ張ってきた穂香。彼氏の浮気現場を目の当たりにして、怒るでもなく泣くでもない千咲希を不思議に思った。


「腹立たない? 悲しくない? それとも、衝撃過ぎて言葉も出ないとか?」


「……どれでもない」


「えっ? どういう事?」


 千咲希自身も、わからなかった。それでも、自分の知らない女の子と腕を組んでいた春翔を見て、あぁそうだったのかと納得した事もある。