夏の半分が往き過ぎた。
向日葵の大輪の花は首を垂れ、重たそうに風に揺れている。

学校の補習の合間を縫っては私と先生は学校のLL教室で逢っていた。

あまり人の来ないLL教室は私と先生が唯一二人でくつろげる場所になっていた。

そして、はじめて私たちが結ばれたのも、この教室だった。

先生と隣り合った席に座り、ノートを開いて勉強を教わっているフリをしながら、本当はもっと別のことを話していた。

「ねぇ、先生。先生のお父さんてどんな人なの」
「俺の親父?大人しい人だよ」

「大人しい?」

「ああ、味噌汁が塩辛くても、『まずい』って正直にいえない人」

「あはははは」

「俺としては威厳のある父親であって欲しかったんだけどな」

「そっかぁ、先生とは正反対なんだね」

先生は、「どういう意味だぁー!!」とふざけながら私の頭に拳骨を落とした。

でもその手が私の髪に触れたとき、廊下を歩く人の声が聞こえた。

めったに人の来ないこの辺りでは、人が通ると、かえって驚く。

私と先生も慌てて、声をひそめ、少し席を離した。

壁が薄いのか、会話する声がもれ聞こえてくる。
「ねぇ、なんかさ、最近変な噂流れてるの知ってる?」