舞はその日、セルフサービスのガソリンスタンドにいた。

時間は夜の10時を回ったところだ。

小さな手で灯油缶の中に灯油を詰め込む。

誰かに見られていないかな、大丈夫かな。

そう思いながらも冷静な自分がいる。

缶に灯油を詰め終えると、舞は自転車の荷台にそれを載せて、人目につかない道を走った。

風はだいぶ冷たくて、鼻の頭がかじかんでいた。
舞は家に着くと、その灯油缶を縁の下に隠した。
実行は、明日。


翌日。

普通の顔をして学校に登校。

友達と楽しく遊ぶ。

誰も舞が計画していることなど知らない。

舞は自分が自由になれると思うと、胸が躍った。

家に帰ると、父親に友達と遊びに行く、と嘘をついて縁側に回った。

縁側からちょうどふすまが陰になって舞のしていることはわからない。

舞は重たい灯油缶を抱えながら、窓の隙間から部屋の様子を伺った。

父親は居眠りをしながら、テレビをつけている。
今しかない。


舞はゆっくりと灯油を家の周りに撒いていった。
たとえ、自分の大切なものが燃えてしまおうと、もうどうでもよかった。
でもお気に入りのウサギのぬいぐるみだけはポケットに詰め込んでいた。