「でも先生。私、先生に離婚して欲しくない」

すると先生は悲しそうな顔をして、

「俺たち夫婦はもう駄目なんだよ」

どういう、こと…?

どく、どく、どく。

心臓が早鐘を打つように高鳴っている。

「あいつ、他に男がいるんだ」

えっ…。

うそ、でしょ?

だって初めて家に連れて行ってもらったとき、すごく仲よさそうだったじゃない。

「相手は、俺の大学時代の親友」

先生のメガネの奥が曇った。

私は二の句がつげない。
「香澄も、もしかしたら、俺の子供じゃないかもしれないんだ」

意味が、わからない。

香澄ちゃんの本当の父親じゃないかも??

先生が?

「あいつ、俺とつき合っている間に、そいつとも付き合ってて。気づいたときにはもう妊娠してたから、俺が父親、ってことになってるけど」

「血液型は?」

「俺も俺の親友もO型。香澄もO型」

「じゃあどっちが親か本当にわからないの?」

「詳しく調べればわかるんだろうけど…。そんな勇気、俺にはないし」

先生は寂しそうに笑った。

どうして。

愛し合って、お互いが大切に思ったから、香澄ちゃんが生まれたんじゃないの?