映画館の前にたどり着くと、だいぶ人が減っていた。

先生、どこにいるんだろう。

酔っぱらってたし、先に帰っちゃったかな。

頭をぶんぶんと横に振る。

先生は約束を破ったりしない。

いつだって生徒のことを考えてくれる。

そう、私は生徒なんだ。
でも、違う。

私は先生の特別になりたいの。

ただの生徒じゃなく、恋人、彼女。

先生のたった一人になりたい。

先生、あなたは今、誰を思っているのですか?


私が立っていると、背後から誰かに肩を叩かれた。

先生?

すると、そこにはグレーのスーツを着た狐が立っていた。

狐は私の方に手を伸ばした。

視線を手のほうに移す。
そこにはビニールの中で一生懸命泳ぐ金魚がいた。

「こんな夜遅くに女子高生が出歩いていいのかな?」

狐からビニールの袋を受け取り、先生、とつぶやく。

狐はゆっくりと仮面を外す。

仮面のしたから、優しく微笑む、先生の顔。

涙が出てきた。

先生、会いたかった。

すごく苦しかった。

胸が張り裂けそうだった。

そう言いたいけれど、言葉にはならない。