舞の父親は商社マンだった。

今でこそ家にいて、だらだらと1日の半分以上を過ごしているが、働いているときはとても格好よかった。

スーツをばしっと着こなし、ネクタイを結んだ姿は友達のどの父親よりも格好良く見えた。

そんな父親を舞は尊敬していたし、すごいと思った。

夜遅くまで仕事をして、海外や国内を飛行機で飛び回り、いつもきりっとしていたお父さん。

パソコンのキーボードを打つのも速かったし、車の運転も上手だった。


そんな父親が会社を首になったのは、ある秋の日のこと。

突然、会社に行かなくなったのだ。

母親は父親とよくけんかしていた。

「あなたが痴漢なんかしなければ、会社を首になったりしなかったのに」
「仕方ないだろ、出来心だったんだから」

そんな言葉が舞の頭の上を飛び交う。

痴漢、して首。

私が尊敬していたお父さんが、痴漢?

父親は悪びれる風もなく、いつもテレビの前でごろごろと、アザラシのように転がっていた。


働いていた頃の父親は、舞が望めばおもちゃだってお菓子だっていくらでも買ってくれた。

キティちゃんのぬいぐるみ、ミッキーのレターセット、コアラのボールペン。