雪に塩

「仕方がない、ユーハちゃん。一緒に逝こう。」


「…え?」



‥‥死ぬことは別れとは言わぬ、一緒に死ねぬのが別れ。


それならば。‥‥



「しょうがないんだよ。お家に帰れないんだから。」



‥‥クワを抱いて共に死のう。‥‥



「心配しなくてもいいよ。」



‥‥アイビーが死んでも離れないように、僕達を繋いでてくれるから。


この世でもあの世でも、離れはせぬ。‥‥



「僕もすぐ逝くからね。」



鍼蔑は割れた花瓶の破片を持って杠に近付く。



‥‥誰も望まぬ結末へと誘う。‥‥



「こ…な、で……来ないでっ!」


「ユーハちゃん!」


「杠!」



見えずとも鍼蔑の常軌を逸した雰囲気は伝わってきて。


杠の鬼気迫る叫び声に、靱と炒市は焦りを隠せない。



‥‥逝くその導はあの日抱いた杠と過ごす夢。‥‥



「ユー、ハ、ちゃん…」


「ぁ……」



すぐ傍のドアからの怒号も耳に入らないのか、うっとり杠の名を呼ぶ鍼蔑。


背をソファーに阻まれ大して距離も取れず、杠はもう声が出ない。



「杠ぁぁあぁ――!!」



炒市の声と共に、鍼蔑はドアと一緒に吹っ飛んだ。