SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


「みくを一人に出来る訳ないし! だから一緒に行こうって、」


「あ〜、あたしはダメっぽい 」


「……え?」


「さっき言いそびれたんだ。足、まだネンザしてる」


「……ネンザ?」


「黒木、やっぱり調子悪かったんだ。そういえば、まだいっぱい治ってないし、だからあたしは歩けない。湧人は家に帰ってあげて。お婆ちゃんがかわいそう」


「……っ……だってっ……みくっ、」


「あたしは大丈夫。ここ、意外と安全だから」


「……え、」


「マンション。黒木がね、いろいろ考えてくれたんだ。ほら、ボタンを押せば誰も家に入れないし、窓も壁も、ぜんぶぜんぶ頑丈なんだ。だから、あたしは大丈夫」


「……みく……」


湧人は視線をウロウロさせる。


「……ハァ、」


溜息の後、さっきの黒木とユリみたいに悩ましげに、それでいて口調を強く湧人は喋った。


「分かった。オレはちょっと家に帰る。でも、またすぐに戻ってくるから」


「……え?」


「婆ちゃんの様子見て、親戚とか、ヘルパーさんに来てもらう。落ち着いたらすぐにここに戻ってくる。だから約束して。それまで誰が来ても絶対中に入れないって」


……あ、

一瞬、目が揺らぎそうになるのを堪えて、


「うん」


あたしは湧人に返事する。


「じゃあ、約束」


そう言うと、湧人はマンションを飛び出して行った。