SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


「……っ……てめえ……」


ギリッと奥歯を噛み締めて、透が堅く拳を構えた。


「ザケんじゃねえぞッ!」


——グワッ!


怒りと化したその拳があたしの顔面に迫りくる。

……と、


「——!」


何故か透は動きを止めた。

一瞬見えた複雑な顔……

拳はあたしの顔面すれすれの所で小刻みにブルブル震えている。


「……とお、る……?」


するとそこへ郵便配達のバイクが、ゆるい坂道をのぼってきた。


「……チッ、」


逃げるように透と薫はすぐにそこから立ち去った。


「…………」


“……ブロロロ……”


気配を消したあたしには郵便屋さんは気付かない。


“ガゴン、チャ……ウ゛ウウ——ン……”


郵便受けに封筒を入れ、バイクは坂を下って行った。


——シン……


誰もいなくなった庭先。

芝生に寝転がったまま、あたしはぼんやり空を見る。


「…………」


澄んだ青空……


見ていると妙な感覚に襲われる。


空はどんどん高くなり、


体は下へ下へと沈み込んでいくような……


————っ!


突如地面が抜け落ちて、あたしは猛スピードで落下する。

おもわずギュッと目をつぶると、暗闇があたしを抱きとめた。

徐々に感覚が戻ってくる……


「……はあ、」


背中に感じるひんやり感に、地面があるのを確認する。

瞼の裏には透と薫が映っていた。


「…………」


昨日より二人の怒りは強かった。


次から次へと憎悪の念が湧いてきて……


もはや二人にとって、あたしは敵以外の何者でもないのだ。


改めて思い知らされる。


罪の重さを、大きさを……


透と薫の心の痛みや苦しみを……


あたしは瞳を閉じたまま、しばらくそこから動けなかった。