SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


————夜……


楕円形の白い月が高い所で輝いている。

あたしは用意してもらった二階の部屋、

電気もつけないその場所で、窓越しに夜空を眺めていた。


「……ハァ、」


ため息と共にいったん視線を引き戻す。

月の光が絨毯にあたしの影を作っていた。


「…………」


輪郭のないボヤけた影だ。

それが時々、もともとあった夜の闇と混ざり合う……


——ブルッ、


見入っていると震えが起きる。

体が、心が、闇にのまれるようだった。


——コンコン、

「みく?」


ノックと共に声がして湧人が顔を覗かせる。

パッと電気がつけられると、それまでの闇がいなくなる。


「何してるの?」


何でもないふりをして、湧人はあたしのそばへ来た。


「月を、見てたんだ」


「月?」


「今まで嫌いだったけど、欠けたのは、きれいだなって思ったんだ。だから、今日からたぶん好きなんだ……」


「そっか」


「うん。それであと、闇を見て……」


「……闇?」


「分かったんだ。今のあたしと一緒だって。気持ちは、人の心は、すぐに変わるものなんだって」


右手を見ながらあたしは喋る。

白い包帯が巻かれた手……

昼間、透に踏みつけられ、血の滲んだあたしの手を湧人は手当てしてくれた。


「……それは……」


銀の瞳が左右に揺れる。

あたしが何を言いたいのか、湧人は察知したようだ。


「……でも、いくらなんでも暴力はひどいよ」


湧人は声を震わせる。

悲しみと怒りの色が湧人の体を包んでいた。